相続第14回目「改正相続法の概要―遺産分割に関する見直し③」

弁護士の若林です。

今回も預貯金の払戻し制度について説明していきます。

 

前回説明した平成28年最高裁判例により預貯金も遺産分割の対象とされたため、各金融機関は、相続人の一人からの法定相続分相当額の預金引き出し請求を認めない方針を強化しました。

その結果、相続人全員の同意が得られない場合、遺産分割が成立するまでの間は預貯金を引き出すことができず相続債務の支払いに充てることが困難となりました。

被相続人の預貯金が引き出せないことで、被相続人のお金で生計を立てていた相続人の生活費が捻出できない、相続人が葬儀費用を用意することができないというケースも生じるようになりました。

 

この不都合に対応するため創設されたのが「遺産分割前における預貯金の仮払い制度」です。

 

民法第909条の2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなす。

 

条文によると、相続人が単独で引き出せる金額の計算式は以下のとおりとなります。

 

相続開始時の預貯金債権の額 × 3分の1 × 払い出しを求める相続人の法定相続分

 

例えば、相続開始時に預貯金残高が900万円ある場合、被相続人の配偶者は150万円(900万円×3分の1×2分の1=150万円)を単独で引き出すことができます。

 

では、相続開始時の預金残高が9000万円あった場合、被相続人の配偶者は1500万円(9000万円×3分の1÷2分の1=1500万円)を単独で引き出すことができるのかというと、これはできません。

条文のかっこ書きに記載があるように、法務省令で引き出せる上限額が決められています。

法務省令で定める上限額は150万円です。

 

したがって、どんなに多額の預貯金がある方でも相続人が単独で引き出せる額は150万円までとなります。

 

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