弁護士の北村です。年末も近づいてきて慌ただしい今日この頃です。
さて,シリーズ2回目は,相続についてです。
(1)相続人の範囲について
被相続人および相続人の範囲を確定しないことには,相続は始まりません。そのためには,被相続人の出生から死亡までの戸籍を追いかけていくことになります。本籍地が遠方にある人がいる場合,少しばかり面倒な作業かもしれません。
(2)遺産の範囲および評価について
被相続人の資産(=遺産の範囲)について,例えば被相続人と生前同居していた相続人とそうでない相続人とでは,大きな情報格差があることが多いです。あったはずの被相続人名義の通帳が見当たらない,などという場合には,戸籍謄本で相続関係を証明することで,各相続人が単独で金融機関の取引履歴や残高証明書を取得することができます。不動産については,地番が分かれば誰でも登記を取得することができますし,正確な地番が分からなくても,固定資産評価証明書などから,当該市町村内の不動産については把握ができます。
不動産や高価な動産等については,その評価額についてもめることも少なくありません。その場合,固定資産評価額を取るのか,路線価を取るのか,はたまた専門業者の査定額を取るのかについては,法律で決められているわけではありません。情報(資料)収集がカギといえるかもしれません。
なお,生命保険金については,受取人の固有財産であって遺産ではない(すなわち遺産分割の対象とはならない)と解されています。
(3)遺言の有効性について
遺言が存在する場合,その有効性が争いになることが少なくありません。民法が定める形式をみたすか否かはある程度明確であるため,深刻な争いになるのは,遺言作成当時の意思能力の有無や偽造の有無などです。
意思能力の有無(例えば認知症の程度など)については,最も重要な証拠は,医療機関等の診断書・診療録等です。日常接していた関係者の供述やメモなどももちろん重要ですが,そのまま信用性が認められるとは限らないことに注意が必要です。
偽造の有無については,比較可能な文書等があれば筆跡鑑定をすることも可能ですが,それなりの費用は覚悟しなければなりません。不自然な状況証拠によって偽造があったといえる場合もありうると思います。
(4)特別受益・寄与分について
法定相続分通りの遺産分割が相続人間の公平を害するといえる場合にこれを調整する制度が,特別受益および寄与分です。
具体的には,相続人の1人は十分に生前贈与をもらっているのでその分を差し引くべきだ(=特別受益),という主張をされることがとても多いです。また,被相続人の財産に使途不明金がある場合,生前同居していた相続人が手元に入れているはずだからこれを考慮すべきだ,という主張もとても多いです。
実のところ,相手がそんな事実はなかったと反論してきた場合,そのことを証明するのは意外と難しいのです。被相続人の通帳などから不自然な出金があり,同じタイミングで相続人の1人が突然多額の支出をしていたことや,相続人の通帳に不自然な入金があったことなどの証拠があれば,というところです。ただ,古い話だとそのような証拠がなくなってしまっている可能性もあります。使途不明金については,金額や時期に照らして,被相続人自身が使ったお金だ,という反論を封じられるか否か次第でしょうか。
因みに,使途不明金については,家庭裁判所の遺産分割調停ではなく地方裁判所の民事訴訟で別途決着を付けるよう,裁判所から求められることが多いです。